華水の月

19.恍惚の白昼夢

「カーテン……閉めて」
「やだ」
「……お願い」
「美緒のお願いでも、聞きたくない」
「……イジワル」
「綺麗な体、見てたいから」
「あんまり見ないで……」
「それに……懐かしいだろ?」
「何が?」

 ――初めて抱き合った日も、こんな綺麗な夕暮れの中だった。
 
 思い出すだけでも胸が震える。
 初めて抱いた美緒の体は小さくて、壊してしまうんじゃないかと本気で思った。腕の中で、涙を零す彼女が、愛しくてたまらなかった。抱き合っているのに切なくて切なくて。あんなに心震えるセックスをしたのは、初めてかもしれない。
「腕の中にいる女は、あの時と一緒なのに、愛しさが全然違うよ」
「どう……違うの?」
「あの時も愛してた。……でも今はもっともっと、比べられないくらい愛しすぎてたまらない」
 日に日に増す想い。一体、どこまで堕ちれば、気が済むのだろうと思う。もしかしたら、終わりなどないのだろうか。
 薫のワイシャツを一枚羽織っただけの美緒。下着は身に着けているけれど、華奢な体には不釣合いな薫の大きなワイシャツは、美緒を包みきれていないようだった。胸元が大きく開いて、肩が露になる。彼女の左肩に優しく唇を落とすと、美緒が小さく声を漏らした。
 右手で器用にボタンを外し、美緒の背に手を回す。ブラのホックを指先で弾くように外すと、締め付けが緩まったのか、美緒が吐息を漏らした。そのまま、露になる胸を大きな手で包み、ゆっくりと彼女が纏うものを剥がしていく。特に抵抗を見せず、薫に全てを委ねていた美緒の体は、一糸纏わぬ姿になった。
 その光景を見つめたくて、薫が少し体を離す。夕日が作り出す、体の陰影。滑らかな肌は凹凸なく夕日を反射するのに、艶かしいほどの膨らみや細さが影を作り、芸術的とも言えるほど女の体を象徴した。
「……見ないで」
「見せて」
「……恥ずかしいの」
「恥ずかしいから、いいんだろ?」
「……何が?」
「美緒のそんな顔があまりにも可愛いから、もっと愛したくなる」
 体中を視姦され、恥ずかしさに顔を歪める。そのなんとも言えない表情が、薫の欲望を刺激する。薫の目を見ていられず顔を背け、大きな羽枕の中に顔を埋める。細く、白い首筋が露になり、躊躇うことなく薫はその首筋へと唇を寄せた。
「あっ……」
 耳から、鎖骨へ向けて、熱い唇が這う。衣擦れの音が、とても淫らだった。
「可愛い」
 耳元で囁きながら、柔らかな胸を弄んだ。指の形がくっきりとついてしまいそうなほど淫らに揉みしだく。溶けてしまいそうなほど柔らかな胸なのに、その頂にある桜色の蕾は、自分を主張しはじめていた。
「泉のせいで、ずっとお預け食らってたからな。俺としたくてたまらなかっただろ?」
「そんなことな……っ」
 美緒の様子を覗いながら、蕾を口に含む。舌で転がして優しく舐めていたかと思うと、時折軽く噛んだ。背を仰け反らせ、胸元にある薫の頭を抱きこむ。細い指に、薫の髪が絡んでいく。
「俺は……したかったけど?」
「ほんと……?」
「でも、美緒がしたくなかったって言うんなら、やめようかな」
「え……」
 意地悪く微笑んで、上目遣いに美緒を見上げる。上気した頬に虚ろな瞳。目の前にいる少女は、もはや女になろうとしていた。
「したくなかった?」
 フルフルと首を横に振る。
 精一杯の返事なのだろう。けれど、態度よりも、言葉で聞かせて欲しい。
「口で言わないと、してあげない」
 言葉とは反対に、薫の唇や指は、美緒への愛撫が激しくなる。薫の質問に答えたくとも、体中を這い回る快感に、上手く声を出せないようだった。何かを口にしようとすれば、それが喘ぎとなって吐息と一緒に漏れてしまう。
「あっ、やだ……せんせ……」
「嫌なの? ……へえ。体はこんなに悦んでるのに」
「……っ! あっ、ダメ、そこは」
 胸を弄くっていた手が、スルリと足の間へと忍び込む。既に湿り気を帯びだしていた秘所へと、指が滑り、花びらを掻き分けるようになぞっていたかと思うと、ゆっくり中指を突き入れた。瞬間、美緒の体中が強張り、無意識に指を締め付ける。薫は、その締め付けを楽しむように、中で指を動かし始めると、美緒の様子を楽しみながら口付けを落とした。
「まだ何もしてないのに、なんでこんなに濡れてんの? もしかして、俺とすること、想像してた?」
「やっ、して、ないもんっ……」
「まだ指一本でこんなにきついんだけど。俺のちゃんと受け入れられんの?」
「大丈夫っ……」
「なんだ、入れて欲しいんじゃん。素直じゃない女」
 ニヤリと微笑むその表情は、いつもの薫よりもずっと意地悪だ。初めて美緒を抱いたときの彼とは、少し違った。
 中を掻き乱す指を、奥の方まで突き入れると、指先に何かがコツンと当たる。その瞬間、美緒が悩ましげに声を上げ、シーツを強く握った。
「奥まで来る?」
「……なに、が?」
「俺の指長いからさ、別に入れなくてもイクんじゃない?」
「ヤダ……、指だけじゃ……」
「でも、美緒の中は、指だけでも充分良さそうだけど?」
 指を二本に増やした。一本でもきつい美緒の中は、二本の指を容赦なくキュウと締め上げる。内壁を楽しみながら、美緒の感じる部分を執拗に擦り上げると、彼女が腰を浮かし、淫らにくねらせ始めた。

「ほら、溢れてきてるよ。聞こえる? 美緒の音」
「やっ……聞きたくないっ……」
「どうして? すごくエッチで可愛い音なのに」
「んっ、やだ……こんなの、恥ずかし……」
 指が美緒の中を掻き回して、クチュクチュと卑猥な水音を立てる。美緒に聞かせるように、わざとそうしていることはすぐにわかった。聞かないようにしようとも、体が奏でる音は、避けようもなく響いてくる。その音が響くたびに、不思議にも体が震えだし、余計に何かが溢れて来るのを感じずにはいられなかった。
「美緒、可愛いよ。感じてる顔、すごく可愛い」
「見ないで……っ」
「声も、体も、全部可愛い。もっともっと愛したくなるよ」
 必死に快感に耐える美緒の唇にチュッと口付けると、それまで執拗に美緒を苛めていた指をスッと抜いた。その瞬間、美緒が苦しげに声を上げた。抜かれた瞬間、苦しいほどの快感から解放されたはずなのに、寂しさの方が勝った。
「もっと、聞きたいな。その可愛い声」
 そう言うと、体を起こし、美緒の足の間へと頭を滑りこませた。
 薫の目の前に容赦なく晒される自分の恥ずかしい部分を必死で隠そうと、美緒が手を伸ばしたけれど、その抵抗もあっさりと薫に遮られる。足を大きく広げられ、彼の舌が美緒のソコをゆっくりと舐め上げた、その瞬間、指とは比べ物にならない快感が、背筋を駆け登り、一瞬目の前が真っ白になった。
「ダメッ、そんな汚いとこ舐めちゃ……」
「どんどん溢れてくるよ。美緒はエッチだね」
「違……う。先生が、そんなことする……からっ」
「いいじゃん。もっとエッチになってよ。……俺の前では、いくら厭らしい女でも構わないよ」
 トロトロと甘い蜜を溢れさせながら、その花びらの上では自分を主張するように可愛らしい芽がぷっくりと赤みを帯びていた。それを、触れるか触れないかくらいの力加減で舐め上げる。中を弄られる時とは違う、刺すような強い快感がピリピリと美緒を襲った。思わず跳ねる腰を、薫の腕がしっかりと押さえ込む。足を閉じようとしても、薫の手で大きく開かれたままだった。
「やっ、何? ……ソコッ」
「ダメだよ。そんなに動いちゃ」
「だって、だって……ダメッ、我慢できなっ……!」
 思わず逃げたくなるようなほど強い快感。気持ちいいのに、体が耐えられない。舐められるだけでも堪らないのに、薫はわざと吸ってみたりするものだから、腰が思わずビクンと跳ねる。声が、無意識に出る。呼吸が――上がる。
「我慢すんなよ。そのまま俺に委ねて。……そう、いい子。力抜いて、感じてるだけでいいから」
 薫の言う通りに、全身の力を緩めて抵抗をやめる。舐め上げられる度に入りそうな全身の力を、あえて抜いてみる。すると、奥の方からジワジワと、違う快感が迫ってくる。波が、押し迫ってくるような、そんな感じ。
「先生。なんか……おかしくなる」
「どんな風に?」
「わ、かんない……。でもっ、あっ、なんか……来る」
「もっと、されたい?」
「そんなこと……っ」
 舌が、花びらの中を掻き分けて入ってくる。その熱さに、一瞬身が竦んだ。淫らなほどに動くその器用な舌が、美緒の体に追い討ちをかけた。耐えられないくらいに気持ちいいのに、舌ではないもっと大きなものを欲してしまう。
 体中が、薫の色に染められていた。触れた部分から、薫の色を帯びて、薫のために、体中が変わっていく。彼と交じるために、この体は今まであったのだと、そう思えるほどに。
「正直にされたいって言わないと、やめるよ?」
「だって……そんな、こと……」
「ほら、言えよ」
 花びらの中を掻き回していた舌が、再び蕾へと滑る。少しきつめに吸われて、小さい悲鳴のような声を上げた。
 愛されているのに、弄ばれている。強引なイジワルさが、美緒の体を縛り上げて離さない。
 今この体は、薫の支配下だ。
「……お願い」
「何をお願いするの?」
「もっと……して、下さい……っ」
「……いい子。凄く可愛いね」
 唇は小さな蕾をずっと舐めながら、指が再び蜜壷の中へと突き入れられた。両方を同時に攻められて、声が一瞬止まる。微妙な力加減で攻めてくる薫の愛撫は、女の体を容赦なく翻弄した。強く迫ってくるかと思うと、優しく引いていく。
 まるで……波。彼の波は、女の体を、快感の海の中でゆらゆらと揺らす。
 事実、彼にはそういう才があるように思う。薫しか経験のない美緒でさえ、それが伝わるほどに感じられた。
「すごいよ、美緒。めちゃめちゃ濡れてるのに、中は熱くてきつい」
「やだ……そんなこと言わないで……」
「だって本当のことだし?」
「あっ、やめ、て……両方なんて、ムリっ……」
「ムリじゃない。ちゃんと感じてんだろ? ……ほら、ココはすごく気持ち良さそうだけど?」
「やっ、なん、で? なんだか……っ」
 もどかしい。
 薫から与えられる快感はこの上なく極上なのに、それでも、何か少しずらされているような、勿体つけられているような感覚がある。波が一気に押し寄せて美緒を攫おうとすると、その前にスッと引いて行くのだ。その感覚が、ものすごくもどかしかった。
「先生、お願いっ……もう」
「ダメ。まだイかせてあげない」
 全てを攫わない波は、薫そのもの。わざと焦らされているのだと、薫の言葉でわかった。無意識に腰を自分のイイ所へ誘っても、すぐに薫の指がそこから逃げるように動く。それなのに、彼の舌は、変わらず優しい快感を与え続けて、美緒の体を快感の高みへと引き上げる。全てを解放したいのに解放できない。息は上がり、頬は上気し、大きく胸が上下する。
 崖っぷちに立たされている感じだ。堕ちそうで堕ちない。恍惚とした波が、美緒に押し迫ろうとする、崖っぷちに。
「お願い、もう、我慢……できな、い」
「どうしたいの?」
「して……」
「どうやって?」
 どうやって、という質問の意味が美緒にはイマイチわからなかった。
 自分の足の間で愛撫を続ける彼の髪を掴む。言葉の間にも美緒を攻め続ける彼の動きに合わせて、掴む手の力が強まる。
「欲しいの。……先生が」
「もう? もうちょっと楽しみたいんだけど」
「お願い、イジワル……しないで」
「しかたないな。可愛い美緒のお願いなら」
 そう言ってニヤリと笑うと、体を起こした。サッと身に着けている衣服を脱ぐ。スレンダーなのに、鍛えられて引き締まった体が、夕日に染まる。美緒は、虚ろな目で彼の姿を見つめながら、綺麗……、と心の中で呟いた。女性の体にはない、完璧な体。
 無駄のない動作で、衣服を剥ぎ取ると、美緒を抱えて、大きな羽枕を背に、座るような形でベッドに横たわった。その上に、美緒を跨らせる。彼が何をしようとしているのかわからなくて、美緒が首を傾げた。
「したいなら、自分で入れてみて」
「……え?」
 言われたことの意味がわからない。
 けれど、少し時間を置いて考えると、ようやく薫の言うことの意味が理解できた。要するに、美緒自身が、彼の上に跨って、腰を落とせ、ということだと。
「え、やだ、できない」
「できるよ。ほら、おいで」
「やだあ……恥ずかしいもん」
「恥ずかしいことしてるんだから、いいじゃん」
 美緒を抱え上げて、身を寄せ、優しく抱き締めた。真っ赤に染まる頬にキスをし、そのまま唇を滑らせて、吐息を奪うように口付ける。舌を絡ませ、どちらの呼吸かわからないほど濃厚な口づけをひとしきり味わうと、美緒がハァと溜息をついて、俯いた。
「どうやって……したらいいの?」
「好きなように」
 そう言って、ニヤリと微笑む彼が憎らしい。
 けれど、体が早く薫を欲しがっていた。もう、外側から与えられる快感じゃ足りない。美緒の中を、容赦なく叩きつけるような快感でなければ……。
 美緒は、自分の腰の真下にある薫のソレにそっと手を伸ばすと、細い指先で捉えた。初めて触れる薫のモノは思ったよりも熱くて、驚きに一瞬手を引いた。その反応に、薫がクスッと笑う。
「ほら、早く入れないと」
「わかってるけど……ん」
 美緒の入り口を、チョンと突っつくように、薫が腰を浮かした。触れる熱さは、手に触れたときと同じで、美緒が羞恥に顔を染める。恐る恐る手を伸ばし、掴んだ。熱くて、とても大きいソレを、濡れそぼった入り口に宛がうと、ゆっくり腰を落とす。けれど、思ったよりも凄い質量感に、それ以上奥に進むのはムリだと思った。
「ダメ。こんな大きいの入らない」
「入るよ。ほら、ゆっくり、降りてみな」
「入らないよ……キツイもん」
「バーカ。キツイのは俺の方だっつーの。あんまり焦らすなよ」
 ジワジワと、薫の先端を包む感覚。美緒から溢れ出る蜜は、薫自身を伝い優しく濡らしていく。
 けれど、それ以上は美緒自身では飲み込めないらしく、しかたなく薫は彼女の腰を掴むと、グッと奥まで押し込んだ。途端、彼の全てを包み込む、熱さと柔らかさ。そのなんとも言えない感覚に、身が震えそうになった。
 目の前では、唇を噛んで、美緒が快感に耐えている。その光景が、何とも艶かしい。
「……ほら、入っただろ?」
「あ、はあ……っ。凄、い……」
 美緒が薫の首に腕を巻きつけて、ギュッと抱きつく。繋がっただけ。動いてさえいないのに、奥まで彼を飲み込んだ瞬間、軽く意識が飛んだ。その熱さに、大きさに、快感の限界が耐えられなかった。軽くイってしまった体は、薫を飲み込んだまま、キュウと薫を締め上げる。もっともっと中へ引き込もうと、薫を奥へと誘う。内壁が触手のように蠢いて、ジワジワ刺激した。繋がっただけで、極上の快感を味わったのは、美緒だけではなかった。
「コラ。ずっとじっとしてるつもり?」
「だって……動けないんだもん」
「自分だけイってどうすんの?」
「わかん……ないっ、でも、あっ、凄……いの」
「本当、エッチな体してるよな、おまえって」
 うっすらと涙を浮かべる彼女の唇にチュッとキスをすると、腰を抱え揺すりだした。体重がかかる分、奥の奥まで薫が届いてくる。彼の頭を抱き締めながら、美緒も少しずつ腰を動かし始めた。最初はぎこちなかった動きも、自分のリズムを掴んで淫らに揺れ始める。彼の肩に手を置き、悩ましげに声を上げて、快感を貪った。
「いやらしい眺め。もっと好きに動いていいよ……っ、ほらっ」
 腰を揺らしながらも、胸は薫に弄ばれる。胸の頂きにある蕾を甘噛みされ、片方は強く揉みしだかれ、上からも下からも快感が押し寄せる。充分締まっているはずの内壁が、再び強く締まり始めた。一度快感の果てを知った体が、再びその奥にある快感に向かって走り始める。ザワザワと揺れては、薫を責めたてる。最初は躊躇いのあった美緒の動きも、今は迷いなく薫を引き上げていく。
「……先生、気持ちいい……?」
 そんな色っぽい目で誘うな、と、薫が心の中で呟いて微笑んだ。美緒の方がギリギリなくせに、薫を感じさせようと一生懸命な姿に、愛しさがこみ上げる。
 貪るように唇を奪っていた。二人とも息が上がって、上手く口付けられない。けれど、そのぎこちなさが、余計に淫らだった。
「気持ちイイ、よ。……美緒が、色っぽいから」
「本当?」
 薫の上で揺れていた腰を抱えこんで、美緒を押し倒した。繋がったまま、覆いかぶさるように、美緒の上に倒れこむ。虚ろな目で上目遣いで見上げる美緒の目元にそっとキスを落とした。
「やられるばっかじゃ、やっぱつまんねーな」
「あっ!」
 片足を肩に乗せ、一方は大きく広げさせて、奥まで一気に突きあげた。
 それまで自分の力加減での快感しかなかった美緒の体が、薫の力強さに揺さぶられる。優しくしていたかと思うと、時折深く強く突きあげられて、余裕の許さないその動きが、美緒を高みへと引き上げていく。
 声を抑えることも叶わなかった。目を開けることさえも……。
 自分の体が、本当に薫を気持ち良くしているのか、目で見て確かめたいのに、快感で目の前が霞んで、何が現実なのかもわからなかった。ただ、時折聞こえる薫の苦しそうな呼吸と吐息が、美緒を安心させた。
「先生……先生……っ」
「ん?」
「ダメッ、また来るっ、おかしくなりそう……っ」
 波が、押し寄せる。今までで1番高い波。体の奥からザワザワと。
 その波に溺れないように、必死で薫にしがみついた。
「ダメ……壊れ、ちゃう……」
「いいよ。……イって。美緒の一番可愛い顔、見せて」
「……先生も一緒にイって」
「いいの? ……じゃあ、遠慮なく」
 ニヤリとイジワルな微笑を零したのが見えた。次の瞬間、今まで以上に激しい感覚が美緒を包んだ。
 全身で薫を受け止めているのに、受け止め切れない。激しく、強い動きに、壊れてしまいそうだった。けれど、壊れてしまいたい、とも思う感覚。最奥に容赦なくぶつかる薫自身に、まるでこのまま体が一つになるのではないかと思う。
 しかし、次第に、そんなことを考える余裕もなくなってきた。目の前に色のない光がチカチカと点滅し始める。しっかりと薫を抱き締めているのに、体がバラバラに砕けそうになる。
「先、生……ダメ、もう……っ!」
 目の前に真っ白な世界が広がった。大きな波に、飲み込まれ、攫われた。
 壊れてしまった体を手離さないように、薫をギュッと抱き締める。少しの間の後、薫も欲望を吐き出し、大きく息を吐くと、美緒を優しく抱き締め返す。体が、ヒクヒクと小刻みに痙攣していた。呼吸も、震えていた。
 限界を超えた感覚。
 ゆっくりと瞳を開けると、目の前には、優しく微笑む薫の姿があった。少し心配そうに美緒を見る瞳に、なぜかホッとした。
「悪い。ちょっと、激しくし過ぎたかな?」
「いいの……先生になら、何をされても」
「バーカ。あんまり可愛いこと言ってんなよ」
 そのまま、自然と引き寄せ合うように、唇を重ねた。薫の唇がひどく熱くて、それが心地よくて、美緒は自然と白い意識の中へ引きこまれていった。
 意識の最後に、甘い囁きを残して。
「愛してるよ、美緒……」

Copyright (C) 2006-2011 Sara Mizuno All rights reserved.